亡国の英雄の中の亡国の英雄
タイトルはホッテントリメーカーより。
本日は、国を愛し、国のために戦い、しかし国に裏切られて死んでいった「亡国の英雄の美しさ」というものについて語ってみたいと思う。
アルキビアデス
一人目は、『英雄アルキビアデスの物語』の主人公アルキビアデス。
日本ではあまり知られていないが、ペロポネソス戦争時のアテナイ(アテネ)の政治家で、その卓越した才能を疎まれたが故にアテナイから追放され、当時交戦中だったスパルタへ逃亡。そこでスパルタ王の妃との不義を疑われ、またしても逃亡。アジア方面へ逃げた後、再びアテナイへ返り咲く。その後戦役不成功の責任を取らされ、最終的にフリギアで客死するという、非常にフリーダムかつ波乱に満ちた生涯を送った英雄であります。
私の中のアルキビアデスのイメージは、多分にサトクリフの上記小説によるところが大なので、果たしてそれが現実のアルキビアデスのイメージと同じなのかという点には疑問が残りますが、しかしwikipedia(英語版)によれば、
[Alcibiades] was a prominent Athenian statesman, orator, and general.(中略)He played a major role in the second half of that conflict as a strategic advisor, military commander, and politician.
訳:[アルキビアデス]は突出したアテナイの政治家、演説家、軍人。(中略)ポエニ戦争後半期において、戦略参謀、将軍、政治家として大きな役割を担った。
Alcibiades' military and political talents frequently proved valuable to whichever state currently held his allegiance, but his capacity for making powerful enemies ensured that he never remained in one place for long(.)
アルキビアデスの軍事的・政治的才能というのは、彼が味方した国家が、彼の戦略提言により勝ちまくったことで常に証明されてたわけですが、しかし彼は敵を作りやすい性格、むしろ才能だったため、どこにも長居はできませんでしたとさ。(意訳)
とのことなので、イメージとしてはそこまで違っていない。
ただ、サトクリフ版アルキビアデスの魅力的なところは、一言で言えばツンデレなところ。例えばアテナイに見捨てられて敵国スパルタ側についた後でも、「いややっぱりアテナイは俺がいないとダメだわ。アテナイ嫌いじゃないし戻るわ」的にアテナイに味方し、スパルタを瞬く間に駆逐してしまうツンデレスーパーヒーローなのです。
一方、常に祖国に忠実であり、誰もなしえなかった偉業を上げたにも関わらず、結果的に国を追われ、身の不幸を嘆きながら死んでいった英雄もいます。フリーダムさではアルキビアデスに劣るものの、非常に人間的な彼の名は、プブリウス・コルネリウス・スキピオ。通称スキピオ・アフリカヌス。
スキピオ・アフリカヌス
第二次ポエニ戦争において、共和国ローマを震撼させた猛将ハンニバル。彼を破ったローマ側の将軍が、スキピオ・アフリカヌスです。
彼もまた、誰もなしえなかった偉大な貢献を祖国に対して為したにも関わらず、後に政治的理由で政界を追われ隠遁。祖国に対して複雑な思いを秘めたまま、ローマから遠く離れた地で没します。最期の彼の内心を象徴するのが、彼の墓石に刻まれたという「恩知らずの我が祖国よ、おまえにはわが骨をもつことはないであろう」(『ローマ人の物語II』)という言葉。更に、弾劾裁判時に言い放った、「スキピオが存在しなかったならば、今彼を告発している者たちも、告発する自由どころか肉体そのものさえも存在しなかったかもしれないのである」という言葉。
何故彼らは「美しい」のか
私にしても理由はよく分かりませんが、ひとつには、自分自身それほど国家というものが嫌いというわけでもなく、むしろ生まれ育った土地に愛着はあるけど、現実としてはかつての繁栄はもうそこにはなく、そこを出るべきという欲求が働いているのからなのか。
あるいは、個人としては突出した才能があっても、国家という巨大なシステムの前に「使い捨て」にされていく彼らに諸行無常の運びを見たのか。
あるいはローズマリー・サトクリフ、塩野七生という稀代の小説家の筆車に乗せられているだけなのか。
たまには忘れられた英雄に思いをはせてみるのもいいかもしれませんね。*1
*1:なんて適当な終わり方なんだ!お前は何にも学んどらん!!!!!!!!