『弾言』〜BI制度実現に関する2つの質問

弾言 成功する人生とバランスシートの使い方

弾言 成功する人生とバランスシートの使い方

弾言』ほか、最近色々なところでみかけて、私もそれなりに魅力的な制度だと感じるBI(ベーシック・インカム)制度について、2点ほどでっかい疑問があったので。
BIという制度そのものについては、wikiとか参照。

財源面での疑問

『弾言』p187以下(およびこのエントリ)では、BIのための予算(国民全員に一月5万円で、年72兆円)の財源として、基礎年金・生活保護からの置き換えで13兆円、相続税を100%にすることで得られる金融資産の30〜40兆円/年に相続されるはずだった土地(不動産ではないのだろうか?)を含めた70兆円/年を挙げている。
土地建物で35兆円とかもらって、それをどうやって換金するのか、いざ売ってみたら二束三文だったらどうするのか、という疑問もあるが、そのあたりはよく分からないので置いておくとして、私が問題にしたいのは、相続税を100%にした場合、BI世代2世代目以下でも相続税収入を維持できるのか、ということである。
小飼氏は、相続税を100%にする(国が死者を相続する制度にする)ことで、30〜40兆円の金融資産を、同じく30〜40兆円の土地を、国が相続すると試算しているが、そもそも家族間で相続されていることが多い不動産資産を100%相続税の対称にしたら、土地を持つことへの意欲がそがれ、後者の30〜40兆円というのが、年を経るごとに減っていくのではないか。
具体例を挙げると、Aが持っていた土地が、Aの死後、100%相続税によって国に相続される。となると、Aの子Bは、その土地を相続することができない。Bが新たに土地を入手することがなければ(私なら賃貸にする。不動産は、家族間で長く持ててこそ意味があると思うので)、Bの死後、国家はBからの土地相続を期待できない。相続税が100%であれば、このようなケースはそれほど珍しくなくなるはずだ。
つまり、「土地相続で得られる30〜40兆円」というのは、最初のころこそ現実かもしれないが、いつまで続くかは疑問があるのである。
もちろん、土地を持たない分金を持つようになるのだとか、全体のフローが増えるから税収も増えるので別にいいのだという反論もあろうが、しかし相続税100%であれば、土地どころか金も持たないだろうし(おじいちゃんからのお年玉が10万円なんて日も来るのかもしれない)、税収だってどこまで増えるか不透明だろう。財源のほとんどを死人に依存する制度というのは、ちょっと脆すぎるのではないだろか。

もっと法的に、「相続」というものとの関係で

また、法的な観点から見ると、遺留分はどうするのか、相続財産がマイナスの場合(あるいは遺産があるが債務もある場合)の扱いはどうするのか等、従来の相続人や相続債権者の保護についての問題が第一に挙げられる。名義は相続人のものでも、潜在的には他人のもの、なんてことも多々あるのである。まあ国家を相続人と見立てれば従来の規定を使えないこともないが、それで実際に制度が動くかどうかは別問題である。
また、例えば法人なんかを作って、そこに不動産を移譲し、自分達は家族共同の賃借権を当該不動産に設定すれば、100%相続税を逃れることもできそうではある。(不動産に限らず、そういう「名目的に所有権を移して貸す」ビジネスが流行るかもしれない。)タンス預金にされちゃあ相続の対象にもならないし、そもそも家族の財産なんてそれほどきちんと分けられているものだろうか。
法的に、相続というのは、「団体財産の管理者の交代」(ゲルマン法起源)と、「遺族の生活保障や死後の扶養」(ローマ法起源)の2つの意味を持つとされる(民法 7 親族・相続(有斐閣アルマ))。BI制度よりもより深く社会に根付く相続という制度を、新参のBI制度によって乱暴に掘り崩すのはいかがなものだろうか。


あと、誤解がないように言っておくと、この本でBIが扱われているのは本の一部に過ぎない。『弾言』自体は、小飼氏の人生全般にわたる生き方の哲学を、文字通り「弾言」した本で、全面的に賛成はできなくても、色々と刺激になる本なのであります。