『The Official LSAT SuperPrep』〜米国法科大学院適性試験からロジカルを考える

私だってこういう勉強もしているのです。
というわけで、今日はLSAT(Law School Admission Test:米国法科大学院適性試験)を切り口に、「ロジカル」とか「論理的」ということについて、考えてみたいと思う。
なんとなくマジックワードになりつつある「ロジカル」「論理」についてまず最初に言っておくと、「論理的」や「ロジカル」といった事柄の本質は、巷で人気のビジネス書が言うような、「分かりやすさ」や「理解しやすさ」ではない。道義的・道徳的な正しさとも、ダイレクトな関係があるわけではない。ロジカルとは、もっと道具的なものなのだ。
まず、LSATについて簡単に説明をしておく。これは、アメリカの法曹養成機関*1たるロースクール法科大学院)の全国統一入学試験であり、主として論理的思考能力(Logical Reasoning)、分析的思考能力(Analytical Reasoning)、読解能力(Reading Comprehension)を計測する。
そのうち、私にとって最も簡単だと思われる*2のがAnalytical Reasoning、つまり分析的思考能力であり、以下のような問題が出題される。

次郎、加奈子、良太、睦美、尚子、ポール、Q太の7人から、4人がパーティーに呼ばれることになりました。その4人とは、以下のルールに従って選ばれます。*3

次郎と加奈子のどちらかは選ばれるが、両方は選ばれない。
尚子とポールのどちらかは選ばれるが、両方は選ばれない。
良太が選ばれなければ尚子は選ばれない。
加奈子が選ばれなければQ太は選ばれない。
 
問題. Pが選ばれなければ、何種類の組み合わせがあり得るか。1〜5から選べ。

こういう問題は、英単語がわからなくても記号として認識すれば多くの場合大丈夫だし、読む英文の量も少ないので、楽。
 
一番面倒なのがReading Comprehension、つまり読解問題で、読む英文の量が多い上に、質も高いので困る。以前受けてきた英検1級なんて屁でもない難しさだったりする。
 
そして、今日の中心トピックであるLogical Reasoningだが、例えば次のような問題が出題される。

有名人は、一般人に比べると、罪を犯したときに軽い刑ですむ傾向がある。しかしながら、法の下の平等原理の前では、刑事裁判において、知名度を考慮に入れるべきではない。
 
問題. 上の文章は、正しいと仮定すると、次のうちのどれを最も肯定するか。
(選択肢略)
答え. 有名人に対し、その罪状より軽い刑を課すことは、法の下の平等に反することがある。
他の例題はこちらあたりで。

この問題のキモの一つは、「正しいと仮定すると」の部分。この仮定が何を意味しているかといえば、論理において重要なのは「現実的正しさ」ではない、ということ。辞書的な「論理」の定義は、「議論や思考を進める道筋・論法」*4であり、それはつまり「所与の前提から、方法的に正しい思考の流れによって結論を導き出す」ことである。論理的思考によって導き出される結論の「道徳的正しさ」や「分かりやすさ」といったものは、論理の副産物ではあるかもしれないが、その本質ではない。
例えば、「人間が単性生殖で殖えていたら、男は存在しないだろう」という議論は、「前提を正しいと仮定する限り」において、論理の流れとしてはきちんとしている可能性があるのである。
つまり、論理とは、前提としている事柄が正しい場合に正しく使えば、正しい答えを導けるはずのものだが、前提としている事柄が間違っていれば、間違った結論を導きうるのである。
 
「論理的思考能力が優れている」とは、前提から結論に至る一連の流れを把握・創造する能力にすぐれていることであり、分かりやすい文章が書けることでも、現実的・効果的な結論を導き出せることでもない。それは、前提が与えられている場合は、その前提から正しい流れでもって結論を出す力であり、前提が与えられていない場合では、求められる結論を導き出しうる前提と流れを創出する力なのだ。

*1:法曹一元制の国なので、弁護士養成機関とかローヤー養成機関、というのが正しいのかもしれないが、日本の例に倣う

*2:これは、最も言語能力に左右されないセクションであるからかもしれない

*3:この前提を利用して出される問題は1問ではなく、1つの前提から6〜7問出されるのが通常だが、ここではもっとも場所をとらない問題を選んだ。なお、オリジナルの問題は英語である。

*4:大辞林 第二版